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グリザベラの館

グリザベラの館

H15.5.15  オペ日当日

H15.5.15  オペ日当日 

 1時間ごとに目を覚ましてるようで夜勤の看護師さんが看まわりに来た時に時間を尋ねるとまだ4時だった。普段の熟睡タイムまでもぐっすり眠る事が出来なかった。


 6時に起床して、昨日の事を思い出しながら日記の続きを書いていると看護師さんにあの後寝れたかどうか声をかけられ、寝れなかったと正直に答えた。
7時半になり同じ病室の方は朝食なのだけど、私は手術日のため抜きだ。術前とはいえ胃腸はどこも悪くないので、他の方が食べているのが目に入るとお腹が空いてとても辛かった。空腹を紛らわすのため散歩をして病室を離れる事にした。不思議だと思うのはついつい寝すぎて朝食を抜いた時はそれ程空腹感が無く昼食まで我慢できるのだが、朝目覚めても食べてはいけないとなるととても辛いということである。


 散歩から戻ってきたちょっと後に病棟の主治医が回診にみえて、10時45分頃に手術室に向かって下さいと告げにきた。数時間後に自分の手術が始まるのだ。もうすぐ点滴もしなくてはならない。昨日の診察で病棟からの点滴は免れ、手術室に入ってからする事になっているからだ。手術時間を待っているのはとても長く感じられた。随分長いこと幽閉されていて、処刑されたカペー夫人(=マリーアントワネット)のように思えた。


 9時半になり看護師さんがバイタルチェック(体温・血圧)しに来た。体温が37.4℃で血圧の上が110もあった。これには私自身もとても驚いた。もう一度、手術室に向かう前に計るからといって看護師さんはあわただしく病室を出ていった。


 そしていよいよ手術室に入る予定時刻が迫ってきた。すでに両親がきていた。10時45分になり看護師さんがもう一度体温を計りに来た。先ほどよりさらに悪く37.8℃だった。この時とばかりは看護師さんも驚いていて、もう手術室で待機しているであろう先生に聞いてくると言うとあわてて病室を出ていった。私もこの時点で大変なハプニングを引き起こしてしまったのだとわかった。せっかく手術日までこぎつけたのに、水の泡になったらどうしよう…先生方にも申し訳ないと思った。初診から昨日の診察の事を思い返してると、先ほどの看護師さんが戻ってきて
“麻酔科の先生の指示で、一応手術室に連れてきて下さいと言われました。手術するかしないかは手術室で様子を見てから決めるそうです。”
と私と両親に伝えた。とりあえず、手術が中止になったわけじゃないんだと自分にいい聞かせて、私は看護師さんに付き添われてそして両親はその後ろから手術室へ向かった。自分を元気付けるため、HPでしか見たことない秘密のお部屋にとうとう私も入るのねと看護師さんに話しながら3Fの手術室へと歩いた。ハッチウェーというところで病棟看護師さんが患者の私を手術室専属の看護師さんにバトンタッチした。病棟看護師さんとここで別れ、私は踏み台に乗って小さな間口から手術室に運ぶストレッチャーに移り横になった。ここで病衣を脱いで大きくて暖かなブランケットが身体にすっぽり掛けられ、頭には手術用のキャップが看護師さんによってつけられ、ストレッチャーで手術室に向かった。細い通りに所狭しといろんな器材が置いてあるのが見えた。そして点滴がされることを思い出し、看護師さんに告げた。
“お願いだから、右はイヤ…利き手には点滴しないでね。”


利き手はやっぱりイヤよねと看護師さんとお話しながら、右折をして手術室に入った。一番最初に目に入ったのはドラマでよく見るあの大きな照明と沢山の器材だ。この沢山の器材は麻酔がかかってからの私にとっては命綱になるらしい。看護師さんのてきぱきとした対応で身体に心電図、右腕に血圧の機械そして左手の指に酸素量を計る機械を装着された。私の不安な気持ちをこれ以上増やさないように、ひとつひとつ器材をつけながら教えてくれた。命綱の装着が終わる頃やっと手術用のユニフォームを身につけた諸先生方が私の視界に入った。みんな同じ恰好をされていたので誰が誰だかわからなくますます怖くなり、足までも震え出してしまった。そうしていると主治医であるS先生と今日の手術担当の麻酔科の先生が心配そうに覗き込んできた。


“先生、足の震えが止まらないの。”
“まさかオペ当日に緊張して熱を出しちゃうとは…ハハハ”
とても情けない言い方をして過呼吸にもなってしまった。そんな私の足をS先生は優しくさすりながら呼吸をもっと楽にするように伝えた。それから、麻酔科の先生いわく
“ほんと、どうしょうもないこわがりだなぁ。自分をコントロールする事も必要なのだぞ!”
と喝を入れられ、体温計を計らされた。これ以上熱が上がっていたらどうしようと本当に思ってしまったが少し下がって37.4℃で、ちなみに血圧の上は110のままだった。私のために内科医までも駆けつけてきてくれた。のどの具合を見て問題が無かったので手術続行となった。ここまでどれくらい時間を費やしたのだろう。本当に先生にとっても私にとっても予想外な事だった。ようやくやっと麻酔を入れる準備に入り、麻酔科の先生が左手首ではなく左手の甲から静脈血管確保をしようとしていることに気付き
“あっ、あの…手首じゃないんですか?”
と声を震わせながら尋ねた。そして、麻酔科の先生
“右はイヤと言ったでしょう。甲からやらないと針刺しを失敗した時、右手を使わなければいけなくなるんだぞ!それでもいいのか!”
と説得力ある説明に納得してしまった。静脈への注射には何か法則があるようで、刺したところよりも先っぽに刺してはいけないらしい。


 まずは、点滴を入れる前に痛み止めとしてキシロカインを注射して、それから点滴の針が私の静脈に入った。入る感覚はわかったが痛み止めを打っていたので全然痛くなかった。そしてマスクが口にあてられ麻酔科の先生が
“すぐに眠たくなりますよ!”
とおっしゃったのだが私自身はなかなか眠たくならないなぁと思っていた。が、知らぬ間に麻酔がかかったらしい。


 麻酔科の記録によれば、麻酔開始が11時13分・手術開始が11時52分・麻酔終了が13時20分・手術終了が13時22分でその後少しの間ICUに入っていてそれから病室に戻ったらしい。病棟から嫌がっていた尿カテは麻酔のかかった術中のみだった。


 また、手術の内容は恒常性斜視矯正のため左右の内直筋を前転術で7ミリ、左の上直筋を後転術で6ミリそして右の上直筋を後転術10ミリつまり1センチ動かしたそうだ。


 私が深い眠りから覚めたのは
“手術終わりましたよ。ちょっと身体を移動させるわね。”
という声が聞こえた時なのだが、それがどなたの声なのかはわからなかった。そしてどなたかに病衣を着せてもらったような気がするのだがそれもどなたなのかわからなかった。昨日全然眠ってなかったのと手術の疲れでまた眠ってしまったようだ。いつの間にか病室に戻ってきていて目にガーゼが当てられていた。何も見えない状態だった。目は覚めているのだが身体がいうことをきかなかった。全身麻酔をかけたためなのだが、何か金縛りにあってるような気がした。同じ向きで寝かされていたため寝返りを打ちたいのだが出来ないのだ。ちょうどそんな時、看護師さんが来てくれて私を寝返らせてくれた。のども渇いてきた。なにせ朝6時以降全然水分を摂っていなかったので、とてものどが渇き、のどが痛かった。水分解除のお許しを得て、母親に氷を入れてもらった。口の中がひんやりしてとても気持ちが良かった。本当はごくごくとお水を飲みたいのだけどまだ吸う力が弱くストローで飲めそうになかった。口の中が潤ったら気持ち良くなったせいかまた浅い眠りについた。病棟担当医やN先生やS先生が病室にきたそうなのだがよく覚えていない。


 次に目を覚ましたのは18時をまわっていたらしい。目が見えないので詳しくはわからないのだがやっと意識がはっきりして目覚めた。朝・昼2食抜きでお腹が空いて意識がはっきりしたのかもしれない。夕食はおかゆとみそ汁とりんご1切れと煮魚だったが、煮魚以外は食べれた。目が見えないし、左手にまだ点滴が刺したままだったので煮魚は食べる事が出来なかった。それでも手術を終えたばかりの人とは思えないくらい食べていたらしく、看護師さんに点滴からの栄養はもう要らなそうねと点滴を外された。私はただ、点滴がうっとおしかったし寝る時にまで付けているのがイヤだから、頑張って食べたのだ。私の食事が終わったら母親は帰っていった。


 それから横になっていたのだが、お手洗いに行きたくなり目が見えないのでナースコールをした。看護師さんがすぐに来てくれて、誘導してお手洗いに連れていって下さった。誘導して下さっているとはいえ、やはり目が見えないと怖いものがある。とても短い距離のはずなのに目が見えないとお手洗いまでの距離がとても長く感じた。遅い時間で看護師さんの数が少ないらしく私を連れて行くと
“また戻ってくるからちょっと待っていて。”
という言葉を言い残して行ってしまった。私はこれはチャンスだと思った。痛みだけに苦しむのは真っ平だったので、目の不自由な方の体験をしてみることにした。先ほど看護師さんに教わったからトイレを流すまでは何とか出来た。問題は洗面所までの距離である。ガーゼの付けてない時の記憶と勘でおそるおそる歩いた。時間がかかったが何とか洗面所まで行けて手を洗う事も出来た。その横に自動乾燥機があるはずなのだが、どうしてもセンサー範囲内に手を持っていくことが出来ずてこずっていると、先ほどの看護師さんにばれてしまい何やっているのと笑われながら教えてもらった。きっと中途失明者の方もこんな歯がゆい思いをしてるのだなぁと思った。


 お手洗いから戻ってどれくらい時間が経ったのだろうか。お隣の方が看護師さんを呼んでいて、ちょうどその頃私も目が痛くなってきたので呼んだのだが届かず…ありがたい事にお隣の方が看護師さんを呼び止めて下さった。しばらくして、痛み止めの筋肉注射を左肩に打たれたのだが目の痛み以上に痛い注射だった。その後、起きているには我慢できる痛みではあったのだが、痛みで眠る事は出来なかった。



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